
日本はなぜ国連のe-Participation Indexで世界1位なのか
国連e-Government Survey 2022のE-Government Development Index (EGDI)のサブインデックスであり、単独でもe-Participation Index(EPI)としてランキングされるEPIで、日本は1位になりました。(前回のnote)
近年の調査でも2位から5位の高評価を受けていたのですが、その内容を分析してみましょう。
e-Participationとはなにか
e-Participationは、国民参加型行政をネットワークを使って行う取り組みで、日本でオープンガバメントといわれている取り組みと同じようなものです。
全体を図で示すと以下のようになります。

(UN E-Government Survey 2020)
e-Government SurveyにおけるEPIの位置づけ
e-Government Surveyには、電子政府を評価するEGDIとe-Participationを評価するEPIがあります。EGDIに対して、EPIは取り組み内容が大きく異なるため、前回の調査までは本調査のEGDIに対してEPIは独立した補足指標として調査されてきました。
一方、オンラインサービスと参加(Participation)の関係性が強まってきたこともあり、今年から、EPIは独立した指標としつつも、さらにEGDIのサブ指標にも位置付けました。

OSIにサブインデックスを明確化し、評価点の35%をe-Participationの評価点としています。
EPIの評価軸
EPIは、情報に関するInformation、情報収集や政策形成のプロセスにかかわるConsultation、政策意思決定にかかわるDecision-makingの3つの分野と、6つのサブ分野で構成されます。
e-information
「whereby the Government provides information to people」と説明されるように、情報公開に関する評価軸です。
お知らせや通知を評価するe-notificationと、政府が提供するデータが使えるかどうかを評価するe-enablingで構成されます。
e-consultation
「whereby the Government consults on policy or on services delivery at different stages of the process and possibly provides feedback」と説明されるように、政策やサービスに対して意見収集やそれによる政策形成に関する評価軸です。
講演等について評価するe-discourseと、対話について評価するe-dialogueで構成されます。
e-decision-making
「whereby the Government involves people in decision-making」といわれるように、意思決定に関する評価軸です。
協働について評価するe-collaborationと、権限等について評価するe-empowermentで構成されます。
E-PARTICIPATIONを評価する調査方法と項目
調査は、調査票への回答や、その回答に基づき調査対象国語を母国語とする調査員による調査が行われます。
Information、Consultation、Decision-makingの3つの分野で、それぞれ最高点を取った国のポイントを1として相対評価をします。
EPIを評価するための評価項目は以下になります。
E-participation portal(s)
Availability of social networking feature(s)
Live chat support functionality
Leave feedback option to improve useability and/or accessibility of e-services
Report corruption by public servants or institutions
Calendar or announcements about any upcoming public engagement or e-participation activities
Online tools to obtain raw (non-deliberative) inputs for policy deliberation
Evidence of any outcome of e-consultations resulted in new policy decisions/regulations/services
Open government data portal
In Open Data Portal availability of data dictionary or metadata repository
Guidance or toolkit on using Open Government datasets
Possibility to propose/request new open datasets be made available online
Information about the organization of competitions/ hackathons/ events around the use of open government data
Open Government dataset(s) on national government expenditures (budget)
Availability of GIS or other geospatial data |Evidence of user satisfaction of online or mobile services
Information on government expenditures (budget) on HEALTH/ EDUCATION/ EMPLOYMENT/ SOCIAL PROTECTION/ENVIRONMENT/ JUSTICE
Information about upcoming consultations intended to involve people in the past 12 months (HEALTH/ EDUCATION/ EMPLOYMENT/ SOCIAL PROTECTION/ ENVIRONMENT/ JUSTICE)
Information about having held online consultations via forums, polls, questionnaires etc. intended to involve people in the past 12 months (HEALTH/ EDUCATION/ EMPLOYMENT/ SOCIAL PROTECTION/ENVIRONMENT/ JUSTICE)
Evidence that people’s voices were included in the actual decision-making in the past 12 months (HEALTH/EDUCATION/EMPLOYMENT/SOCIAL PROTECTION/ ENVIRONMENT/JUSTICE)
Open Government dataset(s) on HEALTH/ EDUCATION/ EMPLOYMENT/ SOCIAL PROTECTION/ENVIRONMENT/ JUSTICE
Report online a violation of labor laws
Availability of feature for participatory budgeting or similar mechanism I Evidence of open data license for open government datasets
Open Government dataset(s) on budget/expenditure in EDUCATION/ EMPLOYMENT/ ENVIRONMENT/ HEALTH/JUSTICE /SOCIAL PROTECTION?
Evidence of real time open government dataset(s)
Evidence of any cocreation and/or co-production of e-service (HEALTH/ EDUCATION/ EMPLOYMENT/ SOCIAL PROTECTION/ENVIRONMENT/ JUSTICE)
Evidence of e-petition or similar mechanism
Evidence that people’s voices were included in the policy decision-making on issues related to vulnerable group in the past 12 months(for immigrants, older people, persons living below poverty line, persons with disabilities, women, youth).
調査結果
2022年の調査で日本は、Information 0.9818、Consultation 1.0000、Decision-making 1.0000で、すべてにおいて高い評価を受け、総合1位に評価されています。
日本のオープンガバメントは、2011年の東日本大震災の前年から本格的に開始されていましたが、震災を機に急速に取り組みが進められました。
それ以来、日本はEPIが高く評価され、2位から5位の間を上下しています。
(2012年の評価は前年春(2011年春)の調査票をもとに評価を行うので、まだ順位は上がっていません)

基本的なオープンデータ政策が行われ、行政におけるSNSの活用が盛んであること、ハッカソンなどの活動が活発なこと、対話型サイトであるアイデアボックスが継続して行われていることが高い評価につながっています。
よくランキングといわれ注目されますが、国連の担当部門と話すと、ランキングは重要ではなく、各国が各項目を自分で評価して改善のために使うことが重要といっています。
そういう点で今回のような振り返りは重要です。
実際の取り組み内容
1位という結果に対して、「本当?」と懐疑的に思う人もいるかもしれません。「オープンデータは量も質も十分ではない」「アイデアボックスもたまにしかやらないし参加者が少ない」とか様々な意見があると思います。
e-information
オープンデータに関しては、確かに量と質に関して十分ではない面もあります。しかし、基本的な方針があり、データカタログがあり、主要データ項目に関してデータを公開しているという点で評価のポイントを押さえています。
現在、オープンデータに関しては、カタログの再構築や質の評価指標の整備をはじめ取り組みを強化を進めているところですので、今後に期待してほしい点です。
また、SNSの活用が盛んに行われ、Webサイトと並んで住民への情報提供を進めているところは高評価につながったところではないでしょうか。
e-consultation
コンサルテーションに関しては、政府のアイデアボックスや自治体のDecidimのように対話型サイトが使われているところが評価されています。各国に較べ継続的に活用していることも評価されていますし、ネットでの対話にリアルな対話を組み合わせて議論を高度化する取り組みも評価されています。
日本にはe-Petitionといわれる投票型の請願システムがないと指摘されることもありますが、対話型サイトにおいても「いいね」が押せるようになっているなど様々な工夫がされています。
e-decision-making
意思決定に関しては、アイデアボックスにおいて、結果を大臣に報告して寄せられた意見を実行に移したり、大臣が参加する討論会を開催したりしている点が評価されていると考えられます。
さらに今後は、EBPMとの連携等を深めていく必要があると考えています。
EPIの難しさ
EGDIに比べてEPIは難しい側面があります。EGDIは政府自身が頑張ることである程度評価を上げることができます。
しかしEPIは、e-Participationを推進する政府、自治体、それに参加する国民といった要素が関係します。みんなが協力して取り組みを進めることで高い評価を得られる指標になっています。
そうした点から、今回の1位という評価は、政府、自治体、国民が一体となって獲得した成果であり、様々な取り組みに参加してくれている方々と一緒に喜びたい評価結果です。
今後に向けて
EPIで世界トップという評価を受けたわけですが、各取り組みにおいて、まだまだ改善の余地は大きいと考えています。また、国連のglobal e-Participation workshopに参加してみると、各国の取り組みも進んできています。
今後は「さすが世界1位」と誰からも言われるようにさらに努力したいと考えています。